2010年2月21日日曜日

『デッドライン - ソフト開発を成功に導く101の法則』

今回紹介する本は、こちら。

トム・デマルコ『デッドライン - ソフト開発を成功に導く101の法則』伊豆原 弓 訳, 日経BP社, 1999年
A5判, 310頁



この本は、プロジェクト管理を題材とした小説です。
次々と起こる、プロジェクト管理にまつわる難題をクリアし、その経験から得られたものを金言として語っていくストーリーとなっています。

金言は、簡潔でありながら深い意味を持っています。しかし、この本を読んですぐプロジェクト管理ができるようなものではなく、また、そのような目的のものでもありません。
細かな解説はないので、その一つ一つについて、深く考える機会を与えてくれます。
とりわけ、プロジェクトメンバーに対するプレッシャーが及ぼす影響については、深く考えさせられます。
直感的には、多少のプレッシャーであれば、いくらかの生産性向上があると思ってしまうところですが、実際には、ほとんど効果がなく、その理由として「プレッシャーを掛けられても、思考は早くならない」という、言われてみれば至極当然の事に、目から鱗が落ちました。


その他にも、以下のような気になるトピックがありました。簡単に説明します。
  • リスク管理
    管理者の主な仕事はこれです。大きなリスクは、もちろんですが、日々発生する小さなリスクの管理こそが、重要だと言っています。プロジェクトの遅延を考えても、何か一つの大きなリスクによる遅延より、小さなリスクの積み重ねによる遅延の方が、多いような気がします。
  • 直感モデル
    直感をモデル化し、定量化することの重要性を説いています。
    定量化することで、判断のプロセスをメンバーと共有することが可能となります。また、モデル化することで、判断の前提となる条件を明確にできます。意見の対立は、この前提条件が異なっていることが、原因であることが多いのです。
    直感モデルを利用する上で重要なことは、常に実際のデータからのフィードバックにより、洗練され続けることとしています。
  • プロジェクトの数量化
    プロジェクトの開発規模を数量化することで、直感モデルをプロジェクトに適応することができるようになります。
  • プロセスの改良
    プロセスは、追加することも重要ですが、削除することも同様に重要であると説いています。
  • 最終インプリメンテーション
    バグを入れ込まないための手法について説いています。モジュールの中には、簡単なバグしか無く、モジュールの端、つまりインターフェースに重大なバグが、より多く存在するとしています。そして、これらのバグは、ドキュメントワークでなされる「設計」の中に入り込むのではなく、その後に行われるコーディング中に、レビューされない「設計」として新たに作りこまれるとしています。ただし、この本の中で使われている「設計」が、どのようなものを指しているかを注意深く考える必要があります。私の解釈では、ドキュメントワークだけでなく、プロトタイプ開発や、ペアプログラミング、ピアレビューなども設計の範疇に入るのではないかと思います。
  • 残業の効果
    残業は、まったく総生産量を増やす効果が無く、むしろ下げると説いています。
    残業を行うことが前提の環境では、疲労による生産性の減少に加え、通常業務中の残業によるマイナス分を、残業時間で補えるという油断が生じます。ひどい場合には、プロジェクトが、失敗した場合の免罪符として、利用される可能性もあるとしています。
他にも気になる金言は多数ありますが、後は皆さんがそれぞれの解釈をしていただければいいかと思います。
個人的な感想ですが、この本は、「問題」に対する「解答」ではなく、新たな「設問」という位置付けなのではないのでしょうか。この設問を受け我々は、新たな解答を探すことが求められているような気がします。

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